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コモ湖畔の書斎から dalla finestra lariana

2014 11 21
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Epson R-D1x Biogon 28mm f2.8


原子力規制委員会による新基準の評価には大きな二つの問題点を抱えている。

1)地震による建物、装置等の耐性評価
現在の構造部の地震に対する耐性評価は、水平力方向への荷重、加速度によって行われている。これは日本中に建てられている全ての構造物に適用されているあまりに当たり前の仮定なのだが、実際の地震は単なる水平力だけではなく、上下動にともなう上下方向への加速度も起きる。とりわけ、直下型地震の場合、上下動は大きいというのが通説になっている。
神戸震災の事例では、上下動による加速は、関電がある火力発電所で調べたところ水平動に比較し1パーセント程度とほとんど勘案する必要の無いものだったという報告も成されているものの、全ての事例、全ての地震、構築物で当てはまるとは限らない。具体的にピロティーのような柱で支えられた構築物の場合、上下動による負荷の増加が水平荷重と組み合わさった場合にどのような破壊現象が起きるのか、崩壊が必ずしも水平力だけでなく垂直荷重の瞬間的な過積も一緒になった場合に起こる事も考えられる。
構築物だけに限られない。機械的な装置として柏崎では新潟地震のさいに、燃料集合体が燃料支持金物から外れてしまうという現象がおきている。そしてこれは電力会社自身の報告にもあるように、もともとしっかりと納まっていなかった集合体が地震による上下動によって、留め具から外れたであろうと、報告している。実際、燃料集合体はわずか深さ6センチあまりの窪みの中に乗っかっているような状態で固定されているだけであり、上下動により荷重が激減した瞬間に水平力が働けば、容易く燃料棒が座金から逸脱していしまうことは想像に難く無い。
単なる水平加速度が何ガルであるかという地震評価はだから全ての地震の揺れを評価することにはならない。

2)過酷事故における評価
福島の事故から、今度の新基準は策定されているが、実際には最悪の事態が想定されていない。
それは、地震による緊急停止機能、つまり制御棒を入れる事ができないという事態が起こった際にどのような事が起こりえるかという評価を全く無視している。
運転中の原子炉を止めるためには、制御棒の挿入が大前提になるがもし、もしそれが出来ない場合に何が起こるかということは相変わらずの「想定外」として片付けられてしまっている。福島では幸運にも、ほとんどまぐれといっても良いかもしれないが、無事、制御棒が挿入され緊急停止が行われた。しかしもし、核分裂反応を止められない状態で冷却がストップという最悪の事態が起これば、それは想像がつくと思うが、冷却しないままに核分裂反応が大気中においてし続ける、ということになる。
実際、制御棒が挿入できないというような事態が発生しうるかという疑問を持つ方がいるかもしれない。しかしながら、前記のように柏崎の地震でも、燃料集合体の下部固定部分のズレが観測されており、燃料集合体が上下動をともなった地震の際に、外れてしまい制御棒が挿入できないというような事が起こり得ないとは誰も言えない。
一体どのくらいの時間が掛かるのか想像もつかないが、それはそんなに長く無い(住民の避難可能な時間)時間内に、原子炉圧力容器、格納容器の両者が爆発的な破壊を起こすことが予想される。
新基準は、福島の事故を起こりうる最大事故とした前提として評価しているに過ぎない。一体だれが、あの福島の事故を越える事故が起き得ないと言う事ができるのか、むしろそれを越える事故を想定した安全基準が必要とされている、ということ自体が福島の事故で学ぶべきことだったはずだ。

結局は「再稼働するための作為的な新基準」が作成された事が読み取ることができる。

そもそも「技術」は「分かる事」を元に考えられることであり、「分からない事」「知らない事」に関しては全く無力である。まさか、人類は、もう分からない事も知らない事も無い、などという人はいないだろう。
だからもう一度、言いたいのは、原子力発電は、いずれにせよ限界のある科学技術の問題ではなくて、倫理の問題だということだ。分かり易く言えば、一度事故が起きれば、たかが福島程度の事故でも10万人もの人が住む場所を奪われ地球的な規模で汚染をしてしまうという技術、また将来気の遠くなるような時間に渡って使用済み燃料を管理しなければならないという、未来への負債を抱える技術を、今現在の利権や利便、コスト、などの短期的、ローカル的な視野で判断して、それを「正」とすることのエゴを国家的な規模で行う、ことが問題の根幹にある。おそらくそれは、ホロコーストや広島、長崎の原爆投下と並ぶような国家的犯罪のひとつだろう。
by kimiyasu-k | 2014-11-21 23:35